藤井聡太竜王はなぜ AMD Ryzen™ Threadripper™ プロセッサーを選んだのか?

AMD Ryzen™ Threadripper™ PRO プロセッサー

2023-02-21更新

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将棋に興味のない方でも、ニュースなどで藤井聡太竜王の名前を目にした方は多いのではないでしょうか。プロの棋士であり、2023年1月現在、将棋界の8つのタイトルのうち5つ(竜王、王位、叡王、王将、棋聖)を保持しております。

将棋界でさまざまな最少年記録を更新されていて、「天才」という枕詞で語られることが多い藤井竜王ですが、その実力は研究に次ぐ研究によって裏打ちされたものであることもよく知られています。

藤井竜王は研究のために自作パソコンを使っており、CPUには AMD Ryzen™ Threadripper™ 3990X を搭載。自作パソコンのパーツの総額は70万円を超えると言われています。

ではなぜ藤井竜王が研究用のパソコンのために AMD Ryzen™ Threadripper™ プロセッサーを選んだのかについて考察します。

藤井聡太竜王はどれだけすごいのか?

棋士になるためには奨励会という将棋のプロの養成機関に入る必要があります。ここに入るのも容易ではありません。たとえば、町の将棋道場や将棋ウォーズといったゲームなどで五段の認定を受けている人は、都道府県大会で優勝できる可能性があるくらいの実力者だと考えられます。しかし、そのクラスの人でも奨励会に入ると最下級クラスの6級ぐらいに位置するのです。

そのくらい、プロとアマチュアの差が大きいのが将棋の世界です。

奨励会に入る時期はまちまちですが、プロを目指している人たちの中には小学生の頃から奨励会に入るケースが少なくありません。大人に混じって県大会で優勝できるぐらいの実力なので、小学生で奨励会に入ったというだけですでに「天才」「神童」と呼ばれるような力を持っていると言えます。

しかし、奨励会に入ってもまだプロではありません。例会の中で勝ち上がって順位を上げ、四段に昇段しなければいけないのです。
この四段もさることながら、三段になるのがすでに狭き門です。そして、こうした狭き門をくぐり抜けてきた三段リーグを勝ち抜かなければ四段には上がれません。

三段リーグを勝ち抜くのは非常に厳しく、三段にまで登りつめた奨励会員約40名程度のうち毎年原則4名しか昇段できません。奨励会には在籍の年齢制限があり、26歳(厳密には満26歳の誕生日を含むリーグ終了時まで)で強制退会という厳しい決まりがあります。
ほとんどの奨励会員は夢やぶれて将棋以外の職業につきます。

こうした厳しい戦いを勝ち抜いてプロになったという時点でまさに「神に選ばれし天才」といえるわけです。

そんな中、藤井竜王は14歳2ヶ月という史上最年少でプロ入りを果たした、天才のなかでも群を抜いた天才なのです。

2023年1月現在、藤井竜王は8つある将棋のタイトルのうち5つを保持しています。神に選ばれし天才の集まりである棋士が、死力を尽くして争う8つのタイトルのうち5つを保持しているということは、いかに偉業であるかこれでおわかりいただけるかと思います。

藤井聡太竜王がずっとAMD製CPUを使っている理由とは

2020年、多くのニュースで藤井竜王が、CPUに AMD Ryzen™ Threadripper™ 3990X を採用した自作パソコンを使っていることが報じられました。
このニュースは比較的大きく報道されたので、パソコンを自作する趣味を持っている方であれば覚えているかもしれません。

しかし、実はその前から藤井竜王はAMDの製品である AMD Ryzen™ プロセッサーを使っていました。

藤井竜王がAMD製CPUを一貫して使用しているのは、「最高のCPUであるから」とのことです。

2017年3月3日、 AMD Ryzen™ 7 1800X の登場は、市場から衝撃をもって迎えられました。それまで高性能のCPUはIntel社の牙城だと誰もが思っていたからです。しかし、 ADM Ryzen™ 7 1800X は演算性能が際立って高く、総合スコアを示す「Aggregate Native Performance」ではIntelの i7-6900K より約12%高い性能を示しています。

特に整数演算性能は将棋ソフトの読みの能力に強く影響します。出典:4Gamer.net

なぜ将棋ソフトにはCPUパワーが必要なのか?

こちらは藤井竜王がかつてメインで研究に使っていた将棋ソフト「水匠」の画面です。

ちなみに「水匠」というのは将棋の思考エンジンのソフトウェアの名称です。
表示を担当しているのはShogiGUIというソフトウェアです。なので、他の思考エンジンを使っても画面そのものは全く変わりません。

さて、水匠などの思考エンジンはその局面で様々な手を検討していきます。

1手候補を考えると、それに対する相手の手の候補を考え、それに対する手をまた考えるというように先へ先へと分析をしていきます。

1つの局面において3つの手を検討する場合、1手先まで検討すれば3、2手先までなら9、3手先なら27、10手先なら最終的に59,049の局面を検討する必要があります。

実際には1つの局面で着手しうる手の数は3つどころではありません。
例えば対局開始時の選択可能な手の総数は30あります。
出典:毎日新聞デジタル
https://mainichi.jp/articles/20220507/k00/00m/040/099000c

また局面によってこの数は異なり、最大で593にもなります。
出典:将棋における最大分岐数
http://www.nara-wu.ac.jp/math/personal/shinoda/bunki.html

1つの局面で着手しうる手の数が平均して80であるとすると、これを単純計算で10手先まで検討すると約1.074×10の19乗という膨大な数の局面を検討する必要があるのです。

実際には枝刈りといって、途中で検討を打ち切る処理が入るためこれよりはるかに少なくはなるのですが、10手程度でも膨大であることがおわかりいただけるでしょう。

そのため、水匠などの将棋ソフトで解析をかけると、解析をかけ始めたときはAという手が最善であると示されていて、そこから数秒後にはB、そして20秒後にはCが最善というように徐々に解析結果が変わっていくことがよくあります。

その局面の最善の手というものはわからないのですが、多く先の手まで解析するようにすればするほど、より最善の手に近づくのです。

そのためにはパソコンに検討を多くさせる必要があります。しかし、検討させればさせるほど時間がかかってしまうのです。

そこで重要になってくるのがCPUの性能です。

多数の枝分かれした先の手を分析していくために、CPUのコア数が重要になってくるのです。
コアとは電卓と入力する作業員のペア数みたいなものです。人数と電卓を2倍の数に増やせば単純計算で半分の時間で作業が終わるわけです。

コア数が2倍あれば、単純計算では2倍多くの手を評価できるため、半分の時間で同じ解析結果が得られます。そのためCPUのコア数があればあるほど、最善手に近い手を早い時間で示してくれるのです。

藤井竜王は AMD Ryzen™ Threadripper™ 3990X を導入したのですが、これは必然だったといえるでしょう。

AMD Ryzen™ Threadripper™ 3990X のコア数は64、スレッド数は128(仮想的なCPUの数)です。これに対してIntelの当時の最上位CPUは Xeon Platinum 9282 で、56コア112スレッドです。また、一つ一つのコアの計算速度の目安となる最大クロック数も AMD Ryzen™ Threadripper™ 3990X が4.3GBと、 Xeon Platinum 9282 が3.8GBと大きく差をつけています。クロック数とはたとえてみれば電卓を打つ人の入力スピードみたいなものですね。

使ってみるならまずは水匠がお勧め

現在、藤井竜王は「水匠」と「dlshogi」を併用しているそうです。dlshogiはグラフィックボードのディープラーニングの機能を使って、比較的人間に近い思考方法で解析を行います。

水匠とdlshogiは2022年9月現在において、ソフトどうしで戦わせてみるとdlshogiの方がやや勝ち越しています。しかしほぼ実力は同等で、ごく一般的な将棋愛好家が使う用途においてはどちらを使ってもたいして違いを感じないと思います。

水匠はインストールがdlshogiに比べるとかなり簡単です。また高価なグラフィックボードがなくても動作するため、使ってみるための敷居が非常に低いのが特徴でもあります。

ちなみにAMD Ryzen™(ZEN2以降)のCPUを使っている場合のみ、最新バージョンの水匠5をインストールすることができます。それ以外のCPUの場合は水匠4改をインストールすることになります。この意味でも藤井竜王が AMD Ryzen™ Threadripper™ 3990X を選んだことは必然であったといえます。

水匠のインストール方法はこちらのページが詳しいので、興味を持たれた方は参考になさって下さい。(2021年11月最新 水匠4改よりさらに強力に! 第2回電竜戦版の「水匠5」を導入する

これから新しいパソコンを購入して、将棋にも使うのであれば「ZEN 3」の AMD Ryzen™ 搭載のパソコンをおすすめしたいです。藤井竜王も本当は「Zen 3」ベースの AMD Ryzen™ Threadripper™ PRO を買いたかったが、待ちきれなかったということでした。(参考:https://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/yajiuma/1278287.html

ごく一般的な将棋愛好家であれば、コストパフォーマンスと消費電力を考えると AMD Ryzen™ Threadripper™ PRO までは必要ないでしょう。 AMD Ryzen™ 7 、予算に余裕があれば AMD Ryzen™ 9 をお勧めしたいところです。このレベルのCPUを選んでおけば、一般的な使用用途においてまったくストレスなくこなせる性能があります。

筆者の場合はいちおう有段者(もちろんアマチュアの段位)ではありますが、「ZEN 3」の AMD Ryzen™ 7 を通じて水匠を研究で使用しています。これでも不自由はまったく感じないといったところです。

藤井竜王は「最高のCPUであるから」 AMD Ryzen™ Threadripper™ 3990X を選びました。これまで述べてきた通り、将棋の世界ではソフトによる解析が重要な時代になっています。解析にかかる時間が短ければ短いほど、より多くの解析結果を見ることができるため、より高性能なCPUを求めるのは自然なことでしょう。

AMDでは昨年9月から藤井竜王にブランド広告に出演していただいています。それを記念して、 AMD Ryzen™ Threadripper™ PRO 5995WX をお贈りしました。

藤井竜王と同じCPUを使いたい方はこちら
AMD Ryzen™ Threadripper™ PRO 5000WX シリーズについて

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