-あの「富岳」を超えたスパコンにも搭載!- AMD躍進の秘密は? 半導体業界激変の裏側をユニークな視点で解説

2022-10-14更新

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※この記事は日経XTECH ACTIVEから転載した記事です

データ量が急増する中、サーバー選定に新たな潮流

一強時代が続くサーバーCPU市場に異変が起きている。変化の原動力は、進化を続けるAMDのサーバーCPU「AMD EPYC™(エピック)」だ。その圧倒的な性能とコストパフォーマンスを高く評価し、Meta(旧Facebook)だけでなく、Amazon、Google、Microsoft、IBM、ORACLE、Twitterなど、世界10社のハイパースケーラーと呼ばれる、クラウドデータセンターを運営する企業が採用。サーバー選定において、EPYCという新たな潮流の勢いが増している。

2021年Q1におけるAMDのデータセンター向け売上成長率は86%という驚異的な数字だ。一方、多くの一般企業ではCPUをあまり意識せずにサーバーを採用しているのが現状といえるだろう。しかし、膨大なデータの活用が今後の企業成長に欠かせない中、クラウド、オンプレミスを問わず、これからはサーバーCPUのパフォーマンスがより求められる。CPU性能の差が、DX推進や企業競争力に大きく影響するからだ。

例えば、AMDが公表しているデータによると、仮想デスクトップを構築する場合、国内市場で大きなシェアを占める他社CPU製品の搭載サーバーに比べ、AMD EPYC搭載サーバーは1台あたり倍以上の仮想マシンを動かせるため、消費電力を半減できる。また性能検証において、EPYC 75F3 CPU×1台が、先述のCPU×2台に勝利した。さらに、AMD EPYCとInstinct搭載のスーパーコンピュータが、富岳を超えて世界1位に躍り出た。

AMDの強さの秘密を紐解く1本の動画が好評だ。製造業No.1 YouTuberものづくり太郎氏のチャンネルにおいて、同氏による俯瞰した解説はわかりやすく、かつ興味深い。今回は、動画内容からトピックスを紹介する。ビッグデータ処理のニーズに応えるCPUの技術革新。企業の情報システム部門の関心も高まっている技術について、詳しく解説する。

3分でわかるAMD躍進の理由、EPYCの進化

「久しぶりにAMDの株価を見て驚きました。2020年頃からゆるやかに上昇していたAMDの株価は、Meta(旧Facebook)がAMDのサーバーCPU『EPYC』を採用したことをきっかけに急上昇していました。私は株取引に興味はありませんが、企業の勢いを知るために株価に注目しています」と、ものづくり太郎氏は話す。

AMDは、CPU、GPUを開発し販売する半導体企業だ。AMDには、2つの革新的なCPUが存在する。1つがサーバーCPUのAMD EPYC(以下、EPYC)、もう1つがPC向けCPUのAMD Ryzen™(以下、Ryzen)。Ryzenは厳密に言えば、CPUではない。AMDが開発したCPUとAPUを1つのチップに統合したAPU(Accelerated Processing Unit)である。高い性能と薄くて軽いボディの両方を実現するAPUは、コロナ禍のテレワークに伴うPC需要を追い風に大躍進を遂げた。

YouTube 活動のためミスミを退社し、現在は製造業No.1 YouTuberとして活躍。日本では製造業に関わる人口が非常に多いが、YouTubeの投稿に製造業関連の動画が少ないことに着目し、「これでは日本が誇る製造業が浮かばれない」と自身で製造業(ものづくり)に関わる様々な情報を提供しようと決心し、活動を展開。工作機械、半導体、電子電機、IoTサービス等、様々な日本のものづくり企業とコラボ企画を手掛け、講演活動も行う。

CPU市場で大きな存在感を示すAMD。だが、その歩みは平坦ではなく、冬の時代も長かったと同氏は話す。「AMDの設立は、インテルの設立から遅れること9か月後、1969年5月にスタートしました。当初はインテルとセカンドソース契約を結び、補完企業としての役割を担っていたのですが、その後、セカンドソース契約の継続が困難となったAMDは、チップの独自開発に着手。しかし、インテルの圧倒的強さのもとで、AMDは長く続く冬の時代に入りました。ターニングポイントとなったのは、半導体受託製造企業TSMCとタッグを組んだことです」

同氏は、「ファブレス化し半導体設計のみを行うAMDが製造を依頼する、TSMCを知ることが真の意味でAMDの強さを紐解くことにつながる」と話す。

1987年に設立されたTSMCは、半導体受託製造というビジネスモデルの先駆者だ。その強さとして際立つのが微細化技術である。一般的には、製造プロセスのnm(ナノメートル、1nmは100分の1ミリ)の数字が小さいほど、プロセッサー内部のトランジスタが微細であり、処理速度や省電力性が向上しているとの見方ができる。「自社生産するインテルは、2016年、2017年と、10nmの立ち上げに失敗し、2018年に成功。一方、TSMCは2017年に10nmの立ち上げに成功。2018年にTSMCが7nmの生産を開始したところで、AMDはTMSCへの製造委託を行います。この決断により、AMDはインテルよりも細かい半導体回路を描く能力を手に入れたわけです。2022年下期にインテルは7nmを生産するといわれていますが、TSMCはすでに5nmの生産を開始しました」(同氏)

AMDは半導体製造をTSMCに委託することで最先端の微細化技術を手に入れ、インテルをプロセスで大きく先行

TSMCの強さは微細化技術だけではない。半導体生産に欠かせないクリーン技術に関しても変革をもたらした。「半導体といえば、日本という時代がありました。日本躍進の理由は、工場内のパーティクル(塵・ホコリ)をコントロールすることにより、歩留まりで米国に大きく差をつけることができたからです。インテルは日本の技術・ノウハウを吸収して歩留まりを改善し、世界トップの地位に駆け上がりました。しかし、日本やインテルが採用した工場全体をスーパークリーンルームにするというアプローチは、現場担当者に対する教育や、消費電力の増大などの課題がありました」と同氏は話し、こう続ける。

「TSMCは、従来の課題を解決するべく既成概念を覆す局所クリーン技術を開発しました。密閉容器を利用することで、工場全体をクリーン化することなくパーティクルのコントロールを可能にしたのです。人件費の抑制とともに、装置内だけクリーン度をあげ、工場全体のクリーン度をあえて落とすことで、1工場あたりの空調代金を数十億円単位で削減できました」

ムーアの法則を拡張するチップレットの進化

TSMCはプロセス技術でも一歩先を行く。プロセス技術の課題として、微細化によりコストが下がるという「ムーアの法則」の限界が挙げられると、ものづくり太郎氏は指摘する。「従来、半導体製造は、1個のチップにすべての回路を詰め込み、1つのチップとして加工を行うのが常識でした。今は、膨大なデータを処理するために1つのチップに300億個のトランジスタを形成しなければならず、チップ面積も大きくなります。大きなチップにより歩留まりは低下し1チップ当たりのコストが高騰します。また、加工精度がnmレベルのため、難易度も上がります。これらを改善する手段が、小さなチップを組み合わせる製造手法『チップレット』です。インテルよりも早くチップレットを採り入れて実用化してきたのが、AMDとTSMCの強力タッグです」

AMDのサーバーCPU「EPYC」の第1世代では、チップレットにより14nmで形成したチップを4個使ってプロセッサーを構築し、チップの分割により歩留まりの改善を図った。第2世代では、高速動作が求められるプロセッサー8チップを加工費用の高い7nmで製造し、最新プロセスを必要としないI/O(Input/Output)チップなどを14nmで形成。CPU、GPU、I/Oなどそれぞれの機能に最適な技術でチップを製造し、1枚の基盤上に配置することで歩留まりのさらなる向上と価格低減に成功した。チップレットの進化はムーアの法則を拡張するともいわれている。

TSMCとAMDの共同開発によるチップレットの進化は、歩留まり向上と価格低減を実現した

TSMCとAMDが取り組むチップレットの進化は新次元に入る。「今、チップレットは二次元(平面)で構成しています。TSMCとAMDは、チップレットの三次元化を進めており、上にチップ構造を持っていく技術を確立することで、微細化以外の戦いでも独走しようとしています」(同氏)

AMDの強さは数字として実ビジネスに表れている

AMDの強さにおいて、経営者の戦略的手腕も見逃せないと、ものづくり太郎氏は付け加える。「AMDのリサ・スーCEO(最高経営責任者)は、技術生え抜きの経営者です。半導体チップの設計もプロセスも理解した上で、長期的なトレンドでものごとを判断しています。戦略的な取り組みの1つが、次節からパソコンCPUのRyzenとサーバーCPUのEPYCのチップが共用可能になるということです。通常、パソコンとサーバーのCPUは、違う設計のチップが必要となるため、それぞれに設計リソースが必要です。AMDは、設計の共通化により1つのチップに経営リソースを集中し、人材やコストを最適化しながら競争力の向上を実現できます」

AMDの強さは数字や実績として実ビジネスに表れていると同氏は話す。「最大のライバルであるインテルとの比較において、仮想デスクトップを構築する場合、インテル XEON プロセッサー搭載サーバーに比べ、EPYC搭載サーバーは1台あたり倍以上の仮想マシンを動かすことができます。また性能検証において、EPYC 75F3 CPU×1台がインテル XEON Gold 6262 プロセッサー×2台に勝利するとの結果も公表しています。さらにAWS、Microsoft Azure、IBM Cloud、Google Cloud、Oracle Cloud、Alibaba Cloudなど、世界を代表するクラウドサービスが続々と採用を始めるといった実績に加え、Metaの採用もAMDの強さを証明する後押しになっています」

AMDは、プロセスと設計の力に、経営パワーを統合することで、他の半導体メーカーとの差を広げている。その差を埋めるのは容易ではないと同氏は話す。「AMDとインテルの前年比売上成長率を比較すると、AMDがインテルを圧倒しています。各法人がAMDの優れたCPU性能に気づき始めていることが、売上の数字として表れているといっても過言ではないでしょう。今回は、サーバーCPUのEPYCを中心にお話しました。現在、PCにおいて主流の64bitの OSで使われているx86 CPUの命令セットは、AMDが開発したものが源流です。AMD躍進の背景を俯瞰してみると、技術力の凄みを強く感じます」

半導体の技術革新がDXを支え、DXの進展が技術革新を生み出す。DXにより業務プロセス改革やイノベーションの創造を目指す企業は、今後ますますAMDのチャレンジから目が離せない。

製品紹介
世界最高のパフォーマンスを発揮するサーバー・プロセッサー第3世代AMD EPYC

世界最高のパフォーマンスを誇る、最新鋭サーバー・プロセッサー「AMD EPYC 7003シリーズ」。AMD EPYCを搭載したサーバー・プロセッサーの活用により、アプリケーション・パフォーマンスが高速化され、生産性が飛躍的に向上。また、広範なエコシステムに支えられた AMD EPYCプロセッサーは、ビジネスにスピードと競争力をもたらす。世界最速のサーバー向けプロセッサーであるAMD EPYCの進化は止まらない。3次元チップ技術によりCPUのキャッシュも増え、さらなる性能向上を実現する。

関連リンク
ものづくり太郎チャンネル AMD解説動画
https://www.youtube.com/watch?v=S4yfGzQ0SaU

AMD EPYC サーバー向けプロセッサーの詳細
https://biz.amd-heroes.jp/processors/epyc/

その他のAMDビジネス向け製品
https://biz.amd-heroes.jp/

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